
What is Shunka
「窨花(しゅんか)」とは、乾燥した茶葉と開花直前の生きた花蕾を層状に積み重ね、花が咲く瞬間に放出する揮発性の香気成分を茶葉に吸着させる技法です。
乾燥した花を混ぜるだけの「ブレンド」や、香料を吹き付ける「着香」とは根本的に異なります。天然香料でも再現できないのは、生花が咲く瞬間に放出する数百種類の揮発性化合物の「生きたバランス」を精油では完全に捉えられないからです。
だからこそ、自分で花を育て、摘みたての花で窨花を作ることに意味があります。市販品では決して手に入らない、あなただけの一杯が生まれます。

Traditional Workshop — China
竹籠に茶葉と花を交互に積み重ねる伝統的な窨花の工程
Why Jasmine Doesn't Work with Black Tea
ジャスミンの香りの主成分(酢酸ベンジル、リナロールなど)は繊細で清涼感のある「トップノート」が主体です。
紅茶の持つ発酵由来の重厚な香り(テアフラビン・テアルビジン由来)と合わせると、ジャスミンの繊細な香りがマスキングされてしまい、「重く」なってしまいます。緑茶や白茶の淡い風味と合わせてこそ、ジャスミンの香りが際立つのです。
一方、キンモクセイ・バラ・クチナシは、香り成分に重み(ベースノート)があり、紅茶のコクとぶつかることなく、むしろ一体化して深みを生み出します。これらは自宅で育てやすく、窨花の入門として最適です。
The Four Stages
Layering
乾燥した茶葉と開花直前の花蕾を交互に層状に積み重ねます。花の生体熱によって開花が促され、放出された揮発性の香気成分が茶葉の多孔質な構造に吸着されていきます。
Turning
積み重ねた茶葉と花を定期的に広げてかき混ぜます。熱がこもりすぎると茶葉が傷むため、温度管理は職人の経験と感覚に委ねられています。家庭では涼しい室内で行いましょう。
Removing
香りを出し尽くした花を篩(ふるい)で丁寧に取り除き、茶葉を乾燥させます。高級な窨花茶では、この工程を新しい花を使って3〜6回繰り返します。
Finishing
最後に少量の新鮮な花を使った仕上げの香り付けを行います。これにより、茶葉の奥深くに記憶された香りに、フレッシュな花の「息吹」が加わります。
Make Your Own at Home
特別な道具は必要ありません。密閉容器と、自分で育てた花と、お気に入りの紅茶葉があれば始められます。
ベースとなる紅茶葉を用意します。市販の茶葉で構いません。茶葉は乾燥していることが重要で、湿気を帯びているとカビの原因になります。
te.chatea.shopでは、窨花のベース茶として最適な産地の茶葉を取り扱っています。
開花直前〜開花したての花蕾を摘み取ります。農薬を使用していない花であることが絶対条件です。摘み取ったらすぐに使用します。
朝の早い時間帯(午前6〜9時)に摘み取ると、花の香気成分が最も豊富です。
密閉できる容器(タッパーや缶)に茶葉→花→茶葉の順で交互に層状に積み重ねます。茶葉と花の比率は重量比で約4:1が目安です。
容器の底と上部は必ず茶葉で始め・終わるようにしましょう。
常温の涼しい場所(25℃以下)で6〜12時間置きます。途中で一度かき混ぜると均一に香りが移ります。ジャスミンは9〜12時間が目安。
時間が長すぎると茶葉が湿気を吸いすぎるため、タイマーを設定しましょう。
篩(ふるい)や茶こしで花を丁寧に取り除きます。茶葉を広げて風通しの良い場所で乾燥させます。湿気が残るとカビの原因になります。
低温のオーブン(60℃以下)で15〜20分乾燥させる方法も効果的です。
香りに深みを出したい場合は、新しい花を使って工程03〜05を2〜3回繰り返します。これが本格的な「多窨(たじゅん)」の技法です。
1回窨花でも十分に香りが移ります。まずは1回から試してみましょう。
Grow Your Own Flowers
窨花の命は「摘みたての生花」にあります。自分で育てた花を使うことで、市販品では決して得られない香りの鮮度が生まれます。各素材の栽培情報と、合わせる紅茶の産地をご紹介します。

Osmanthus
アプリコットや桃を思わせる、甘く重厚な香り
栽培情報
日本の気候に非常に適しており、庭木として広く普及しています。鉢植えでも十分育ちます。花が咲いたらすぐに摘み取り、半日ほど乾燥させてから使用しましょう。花が非常に小さいため、茶葉との比率は1:1程度が目安です。
滇紅(雲南紅茶)
蜂蜜やサツマイモのような甘い香りを持つ雲南紅茶とキンモクセイの香りが同調し、デザートのような風味になります。
キャンディ
渋みが少なくマイルドな特性が花の甘みを邪魔せず、ふくよかな味わいを引き出します。
※ 花が非常に小さいため、低温のオーブンで熱を加えて香りを引き出す特殊な窨花技法も有効です。

Rose
エレガントで甘く、わずかにスパイシーなフローラル香
栽培情報
窨花には香りの強い一重咲きの品種(ガリカ系・ダマスク系)が最適です。農薬を使わずに育てることが大前提。花びらを摘み取り、白い花弁の付け根(萼に近い部分)を取り除いてから使用します。
キーマン(祁門紅茶)
キーマン特有の「蘭とスモーキーさを伴う甘い香り(キーマンアロマ)」とバラの香りが東洋的な深い気品を生み出します。
ディンブラ
適度な渋みとバランスの良い香りがバラと合わさり、正統派のローズティーになります。
※ 明代の茶書にも記録がある、最も歴史の古い窨花素材のひとつです。
Gardenia
ココナッツやバニラを思わせる、クリーミーで甘い香り
栽培情報
日本の庭に古くから親しまれてきた花木です。一重咲き品種(ヒトエクチナシ)の方が香りが強く、窨花に向いています。八重咲きは観賞用として美しいですが香りがやや弱め。花が開き始めたら早めに摘み取りましょう。
滇紅(ゴールデンチップ)
ゴールデンチップを多く含む雲南紅茶の濃厚な甘みとクチナシのクリーミーな香りが完璧に調和します。
イラム秋摘み
ネパール紅茶のふくよかな甘みとも相性が良く、ミルクティーにも最適な仕上がりになります。
※ 近年、雲南省の良質な紅茶を用いた高級窨花茶として注目を集めています。
Orange Blossom
柑橘の爽やかさと白い花の清楚な甘さを併せ持つ
栽培情報
窨花に使うのはビターオレンジ(ダイダイ)の花です。甘いオレンジとは異なる品種で、香りが非常に強く精油(ネロリ)の原料にもなります。寒冷地では冬に室内へ取り込む必要がありますが、鉢植えで十分育ちます。
ヌワラエリヤ
高標高の発酵が浅めの茶葉が持つ青々しい爽快感と花の香りが一体化し、透明感のある味わいになります。
ダージリン(ファーストフラッシュ)
マスカットのような華やかな香りを持つダージリンと柑橘系の花が合わさり、「紅茶のシャンパン」に花を添えます。
※ 明代の茶書『茶譜』(1368〜1644年)にも記録がある、最も歴史の古い窨花素材のひとつです。
Chloranthus
蘭に似た清楚で上品な香り。ジャスミンより穏やかで奥深い
栽培情報
中国では古くから茶の窨花に使われてきた植物です。日本では「センリョウ科チャラン」として流通しています。半日陰でも育つため、室内の明るい窓辺でも栽培可能。丈夫で育てやすく、初心者にもおすすめです。
ウバ(クオリティシーズン)
ウバ特有のメントール系の爽快な香りと蘭の清涼感が合わさり、非常に清涼感のある高貴な紅茶になります。
正山小種(無燻製)
上質な紅茶が本来持つフラワリーな香りを珠蘭花が引き立て、清楚で奥行きのある花香紅茶になります。
※ 窨花後に花をそのまま残して乾燥・包装する製法が伝統的です。

Lychee
甘くフルーティーで華やか、南国果実の濃厚な香り
栽培情報
ライチは熱帯・亜熱帯の果樹のため、日本での栽培は沖縄・九州南部が適地です。本州では温室または大型鉢植えで室内越冬が必要です。花の香りは繊細なため、開花直後に摘み取ることが重要。果実の香りを移す場合は、完熟果の皮を薄く剥いて茶葉の上に置く方法も有効です。
英徳紅茶(英紅九号)
強いコクとモルティー香がライチの濃厚な甘みを受け止め、果汁が茶葉の奥から湧き出るような自然な甘みが生まれます。
アッサム
麦芽のような重厚なコクが、ライチの甘みと一体化してミルクティーにも最適な深みを生みます。
※ 広東省では古くから英徳紅茶にライチの果汁を吸わせてから窨花する独自の製法が存在します。
Quick Reference
| 窨花素材 | 開花時期 | 栽培難易度 | 推奨産地・品種 |
|---|---|---|---|
| キンモクセイ(桂花) | 9〜10月(秋) | ★★☆ やや易しい | 滇紅(雲南紅茶) / キャンディ |
| バラ(玫瑰花) | 5〜6月・10〜11月(品種による) | ★★★ 普通 | キーマン(祁門紅茶) / ディンブラ |
| クチナシ(梔子花) | 6〜7月(夏) | ★★☆ やや易しい | 滇紅(ゴールデンチップ) / イラム秋摘み |
| オレンジブロッサム(橙花) | 4〜5月(春) | ★★★ 普通 | ヌワラエリヤ / ダージリン(ファーストフラッシュ) |
| 珠蘭花(チャラン) | 5〜7月(初夏) | ★☆☆ 易しい | ウバ(クオリティシーズン) / 正山小種(無燻製) |
| ライチ(荔枝) | 3〜4月(春) | ★★★★ やや難しい | 英徳紅茶(英紅九号) / アッサム |
Saratna × ASHBYS OF LONDON
スリランカ・インドから直接輸入した茶葉を専門家がセレクト。
あなたが育てた花の香りを最大限に引き出すベース茶葉を、
オンラインショップでお選びください。
References
[1] 中国茶文化紀行(29)花茶の核心工程――「窨花」と「提花」. オルタ広場.
[2] Scented Tea | Types, History & Production. Seven Cups Fine Chinese Teas. https://sevencups.com/learn-about-tea/scented-tea/
[3] Modified Teas: Scenting. Tea Guardian. https://www.teaguardian.com/what-is-tea/modified-teas-scenting/